市民医学講座
第34回 「これって認知症?」
医療法人朋心会旭山病院 院長 近藤 等
大崎市医師会主催の第34回市民医学講座におきまして、約200名の市民の皆様の前でお話をさせていただく機会を与えていただきましてありがとうございました。
2013年6月1日の新聞報道にありますように、厚生労働省は日本の高齢者(65歳以上)における認知症の比率がそれまえの8%台ではなく、約15%と推計されると発表しました。これは約462万人に相当します。認知症は非常に重要な問題でありオレンジプランが提唱されました。
認知症とは一度獲得された知能が、脳の器質的な変化によって、持続的に低下した状態であり、かつ日常生活・社会生活に支障があることと定義されています。認知症は単一の疾患ではなく、アルツハイマー型認知症や脳梗塞による血管性認知症など、いろいろな原因疾患によって起こる共通の症状をさします。頻度はアルツハイマー型認知症が約3分の2を占め、次に血管性認知症が続きます。
認知症の症状には脳の変化からダイレクトに起こり必発である記憶障害、思考障害、判断力の障害、見当識障害、失語、失行、失認、実行機能障害などの中核症状と、それ以外の中核症状への心理的反応等によって起きる、精神・行動障害(BPSD、周辺症状)があります。
中核症状が進行性なのに対し、BPSDは対応や治療によって改善する可能性もあり、また全員に出現するわけでもありません。一方、介護する際に大変なのは中核症状よりむしろBPSDです。アルツハイマー型認知症を例にとり、進行に伴って各時期に起きやすい中核症状と、誤った対応により引き起こされやすいBPSDを列挙してみます。
①-1アルツハイマー型認知症の軽度の時期に起こること
- 同じ話を繰り返す・同じことを何度も聞く。
- 今日何日か、何曜日か、何度も聞く。
- 昔話が増えた。
- 捜し物が増えた。
- 重ね買い・必ず1万円札などを出し釣りをもらう。
- 火の消し忘れ、鍋焦がし。
- 料理の味が変わった、同じメニューばかり作る、簡単なものしか作らない。
- 人付き合いを億劫がる。
- 趣味をやめた。
- 御洒落をしなくなった。
①-2アルツハイマー型認知症の軽度の時期にしてしまいがちな対応
- 年のせいと考える(仕方がないと放置、受診・診断・治療開始の遅れ)・病院では患者さんらしくふるまえる。
- 間違いを正そうとする。
- さっき聞いた、もう聞いた、何度も聞いたなど指摘・注意する(本人が初めて言った、というのを否定・訂正する)。
- 重ね買いを注意し本人の目の前で処分する。
- 調理器具を最新式のものに取り換える。
- 新しい趣味を持つようにいう。
- ドリルの類を強要する。
- 薬を自己管理するよう分方箱を用意。
①-3アルツハイマー型認知症の軽度の時期対応の結果、惹起されやすいBPSD
- 訂正・注意に対し易怒的となる。不機嫌になりやすい。
- 物盗られ妄想が惹起されることがある。
- 新しい調理器具や家電は使い方を覚えられず。何度も聞いたり壊したりで家族とのトラブルが増える。
- 自ら新しい趣味などは始めず、アパシー・引きこもりが出現。
- 薬の飲み間違えから体調不良・せん妄が惹起されることがある。
①-4アルツハイマー型認知症の軽度の時期に望ましい対応
- まず認知症であることを診断・服薬の開始。
- 本人に物忘れの自覚が乏しく、家族が物忘れに気づく場合、認知症の可能性が高い。
- 家族に認知症であることを告げ、年のせいではなく、不可逆な脳の病気であること、また起こりうる症状(物盗られ妄想など)を前もって告げておく。
- 認知症は自覚が不可能なことを家族に理解してもらい、本人の間違いの指摘・訂正をしないよう話す。
- 自主的に新しい趣味や勉強を始めることは不可能(デイサービスの導入を考える)。
- 薬は自己管理はできないものと考えて対応。
- 妄想が出た場合、否定しない。
②-1アルツハイマー型認知症の中等度の時期に起こること
- 季節感のない服装(暑いのに厚着、寒いのに薄着)。
- ちぐはぐな服装。
- 風呂にはいったといって入浴したがらない。
- 病気ではない、と薬を飲まない。
- 具合が悪い、などといってデイサービスを休む。
- 取り繕い、作り話が目立つ。
- 物を片づけられず。
- 料理ができない、洗いものが清潔にできない。
- 一日中、通帳を眺める。古い通帳も新しい通帳も区別がつかない、何度も通帳を紛失する。
- 怒りっぽい。
②-2アルツハイマー型認知症の中等度の時期にしてしまいがちな対応
- 服装がおかしいと指摘。夏に冬物を着たら怒る。
- 昨日、風呂に入ったからいい、という本人に入っていないと事実を告げ、入るようにいう。
- 認知症だから認知症の薬を飲むように言う。
- 本人が行かないというからデイサービスは休ませる。
- 作話に対し、嘘をつかないよう注意する。
- 料理や洗いものを一切させない。家事の役割を取り上げる。
- 言うことを聞かない本人と口論する。
②-3アルツハイマー型認知症の中等度の時期対応の結果、惹起されやすいBPSD
- 厚着から脱水・せん妄をおこす。
- 頑として入浴せず、数か月におよび不潔となる。
- 拒薬による中核症状の悪化・BPSDの悪化。
- デイサービスにいかず、引きこもり、日中の居眠り、昼夜逆転、せん妄。
- 役割の喪失によりアパシーに拍車。
- 否定により易怒性が増す。
②-4アルツハイマー型認知症の中等度の時に期望ましい対応
- 必要ない時期の衣類は本人の目に見えないところにしまう。
- 命にかかわらない珍妙な服装は訂正しない。
- デイサービスは家族が説得せず、休むともきめず、送迎のスタッフに説得してもらう。
- 薬はその都度、本人が納得する理由をつけ、飲み込むところまで見る、あるいは貼付薬を使い家族が貼りかえる。
- 作話は否定せず、話を合わせる。
- 失敗し二度手間になっても料理や片づけを家族と一緒にする。
③-1アルツハイマー型認知症やや高度の時期に起こること
- 家族の顔がわからない(子を兄弟や親という)。
- 自宅にいるのに家に帰るという。実際に家を飛び出す。
- 徘徊し道に迷う・家の中で迷う。
- 外で排尿したり、家の中で放尿。
- 尿失禁・便失禁。
- 不潔行為(汚染した衣類・オムツを隠す、使用した紙を持ち歩く、便器をぬぐう、弄便)。
- 拒薬・拒食。
- 異食・過食。
- 昼夜逆転。
③-2アルツハイマー型認知症のやや高度の時期に望ましい対応
- 誰かわからなければ本人が思っている人物としてふるまう。
- 正しくは誰、正しくはここが自宅と訂正を試みない。
- 夕暮れ症候群、帰宅願望は時間を稼いでおさまるのを待つ。
- 徘徊・不潔行為にもその瞬間は本人なりの理由がある。
- 不潔行為はあるものとして後始末。
- おむつ交換はプライドを傷つけないよう、失禁以外の理由をつける。尿失禁予防を理由に水分制限をしない。
- 拒薬時は食べ物に混ぜたり、貼付薬を使用。
- 異食・過食は食べ物を隠す。
- 昼夜逆転時、睡眠薬を使わず(かえってせん妄を惹起)日中起こす(デイサービス)。
④アルツハイマー型認知症の高度の時期に起こること
- 身体の平衡を保てず、転倒・骨折。
- 寝たきりになりやすい。
- 嚥下障害、誤嚥。
- 言語の喪失。
- 褥創、誤嚥性肺炎の予防、栄養・水分の管理。
以上のようにBPSDに対してはまず対応法の工夫、ケアを考え、それで効果がなければ薬物療法を考えます。
アルツハイマー型認知症の中核症状に対する薬物療法としては塩酸ドネペジル(アリセプト とジェネリック)、ガランタミン(レミニール )、リバスチグミン(イクセロンパッチ 、リバスタッチ )、メマンチン(メマリー )があります。これらは中核症状を治す薬ではなく、進行を遅らせる薬です。
家族に認知症の可能性があり、どこに相談に行けばよいかわからない時は、まず地域包括支援センターに相談してみてください。また介護疲れ、介護のストレスがたまった時はぜひ家族会に参加して下さい。公益社団法人「認知症の人と家族の会」宮城県支部主催の集いや、大崎市が月1回行うものがあります。
平成25年度から国が始めた5カ年計画オレンジプランは、認知症の精神科病院入院を否定し、早期介入と危機回避支援により、長く地域でみていくことを目指すものです。